表示可能無限圏
HTT*1 の最重要部である5章のまとめ記事です.
以下の記事の内容を一部踏まえています:
目次
- 記号
- Introduction
- Conventions
- (余)極限の復習
- Adjoining colimits
- Accessible categories
- Presentable categories
- 💬
記号
- 圏 \(\colon\) \(\infty\)-圏
- ハイフン \((-)\colon\) 関手性
- 下付き \(\bullet\) \(\colon\) simplicial関手性または導来圏の対象
- \(\C{An}\) \(\colon\) アニマ
- \(\C{An}^\r{fin}\) \(\colon\) アニマの圏の(full)部分圏であって,(\(\ast\in\cat{An}\)を含み)finite colimitで閉じているもののうち最小のもの
- \(\C{Cat}\), \(\Cat{Cat}\) \(\colon\) 小圏と圏
- \((-)^\simeq \colon \C{Cat} \to \C{An}\) \(\colon\) full埋め込み \(\cat{An} \hookrightarrow \cat{Cat}\) の右随伴関手
- \(\c{O}^\otimes\) \(\colon\) オペラッド;certain map \(p\colon \c{O}^\otimes \to \r{Fin}_\ast\)
- \(\o{Alg}(\c{C})\) \(\colon\) algebra objects
- \(\o{CAlg}(\c{C})\) \(\colon\) commutative algebra objects
- \(\kappa\) \(\colon\) regular cardinal
Introduction
圏論における完備化に関する章です.
例え話に過ぎませんが,解析学において,「点列の収束」「空間の完備性」「抽象的な完備化の存在」という三つの基本的な考え方があります.これらは,超越的な議論により,何らかの対象の存在を広く一般に保証するための原理を与えてくれます.
圏論においても,圏・随伴・普遍性といった基本概念の理解以上に,「完備性」や「完備化」の存在は,非常に強力な道具となります.これらを通じて,何かの存在を抽象的に与えるための,新たな方法論を形成することができます.
1-圏論ではこうした議論にあまり魅力を感じなかった人もいるかもしれません.しかし,対象を素手で触れるように扱うことのできない無限圏の世界において,これは避けて通ることのできない,根源的な指針となります.
次にpresentabilityの動機づけに触れておきます.
群を,積に関する構成要素である生成元に着目して,それがたかだか有限集合で記述可能な場合に,finitely generated と言いました.加えて,これら生成元の間の関係式が再び有限生成のとき,群を finitely presentable と言いました.
数学に自然に現れる圏においては,余極限によって一般の対象が生成されることが多々あります.この余極限に関する生成元が高々smallな圏で記述され,さらにその間の(同型)射の関係式も再び高々smallな記述をもつとき,presentableと言います.
典型的な説明としては,集合論的なサイズの問題に慎重になったとしてもギリギリ扱うことのできるような大きさの(余完備な)圏が,presentable categoryです.
Conventions
部分圏
ある圏\(\c{C}\) における写像 \(f \colon x’ \to x\) が単射であるとは,図式 \[\xymatrix{x’ \ar@{=}[r] \ar@{=}[d] & x’ \ar[d]^f \\ x’ \ar[r]_f & x}\] がカルテシアンであることとします.
定義より,\(f\)が単射であることと,\(f\circ (-) \colon \o{Map}(-, x’) \to \o{Map}(-,x)\) が単射であることが同値です.次を知っておくと良いと思います.
この定義での部分圏は,KerodonやHTTでは replete subcategoryと呼ばれるものになります.
(KerodonやHTTの意味で)replete*2でない部分圏という概念には,あまり合理性がないため,repleteなものにフォーカスすることが一般的です.
このように,repleteという概念は,対象を定めるものが”性質”であるか否かにおいて,非常に自然なものです.
次のように,部分圏を定めるデータは,1-圏 \(h\c{C}\) のレベルに帰着されます.
- \(f\) が \(\Cat{Cat}\) で単射.
- \(f\colon h\c{C}' \to h\c{C}\) が,1-圏としてreplete subcategory inclusionであり,以下がカルテシアン. \[\xymatrix{\c{C}' \ar[d] \ar[r]^f & \c{C} \ar[d] \\ h\c{C}' \ar@{^{(}->}[r]^f & h\c{C}}\]
したがって,1-圏 \(h\c{C}\) の部分圏を定義することが,\(\c{C}\)の部分圏を定義するために必要十分です.
有限圏
一点と\(\Delta^1\) からはじめて,有限余直積やpushoutの繰り返しで作られる圏を有限であるといいます.
サイズ
同様に,各無限 regular* cardinal \(\kappa\) に対し,full subcategory \(\C{Cat}^{\kappa\t{-small}} \subset \C{Cat}\) を定義することができます**.この部分圏の対象を,\(\kappa\)-small categoryと呼ぶ.
(余)極限の復習
(Co)limitとは,何も言わなければ small diagram の(co)limitのことを指すのでした.
完備性の分解
関手 \(\c{C}\to\c{D}\) が,fiber productと\(\kappa\)-small productを保つとき,任意の\(\kappa\)-small limitを保つ.
- 各 \(A_i\) がgoodならば,\(\coprod_{i\in I} A_i\) もgood.
- 各 \(A_i\) がgoodならば,\(A_1 \coprod_{A_0} A_2\) もgood.
(2)も,\(\o{Map}_{A_1\coprod_{A_0}A_2} \simeq \o{Map}_{A_1} \times_{\o{Map_{A_0}}} \o{Map_{A_2}}\)である*4ことに注意すると,各極限 \(\lim_{A_i}F_i\) のファイバー積をとればよいことがわかる.
filtered
以下,\(\kappa\)は無限regular基数とする.
\(\aleph_0\)-filtered は,たんにfiltered と呼ばれます.\(\kappa\)-filtered ならば filtered です.
次の事実はとても基本的ですが,これをmodel-independentに証明する議論を筆者は知りません.
もし,さらに \(\kappa'>\!\!>\kappa\)*5 なる \(\kappa'\) によって \(\c{C}\)が \(\kappa'\)-small ならば,上のような \(I\) を \(\kappa'\)-small にとれる.
For example, the successor cardinal of \(2^\kappa\) (or \(\tau^\kappa\)) is \(>\!\!>\kappa\).
つまり,\(\kappa\)-filtered colimit に関する議論をする際には,\(\kappa\)-filtered posetで添字付けられた colimit を考えれば十分です.
\(\kappa\)-filtered colimit は,次のように \(\kappa\)-small limit と交換する側面を持ちます.
- ホモトピー群 \(\pi_n \colon \C{An} \to \C{Set}\) は filtered colimit を保つ.
- \(\pi_n \colon \C{An} \to \C{Set}\) は 任意の直積を保つ.
- \(\pi_\ast \colon \C{An} \to \prod\C{Set}\) は ファイバー積をMayer--Vietoris長完全列に送る.
sifted
(アニマの)filtered colimitは,(特に)有限直積を保つという著しい性質を持ちました.これに対し,一般の(モノイダル閉な)テンソル積を保つようなcolimitの種類を考えたいです.
ここでは,2変数のcolimitが対角の1変数colimitに帰着するような図式を考えます.イメージとしては,\(\colim_{j\in K} x_j \otimes \colim_{k\in K} x_k \simeq \colim_{K\times K} x_j \otimes x_k \leftarrow \colim_{j\in K} x_j \otimes x_j\) という感じで,対角の共終性に着目します.
正直,この定理の証明を記憶していませんが,Quillen’s theorem A の直接の適用で示せると思います.
\(\b{\Delta}^\r{op}\)-indexed colimit は,歴史的な理由から geometric realization と呼ばれます.
関手 \(\c{C}\to\c{D}\) が,filtered colimit と geometric realization を保つとき,任意の sifted colimit を保つ.
retracts
つまり \(c’\) は \(c\) の absolute*6 (co)limit になります.このようなretract図式があるとき,\(c’\) は \(c\) に retract する/あるいは \(c’\) は \(c\) の retract であると言われます.
さまざまな概念・性質が,retractで閉じているという点が重要です.
retract は idempotent を与えます.逆に,任意の idempotent が retract 図式から来るとき,圏を idempotent complete であると言います.
もし,\(y\coloneqq \colim\{x \xrightarrow{e} x \xrightarrow{e} \cdots\}\) が存在すれば,\(y\) は \(x\) に retract する.
同様に,\(\lim\{x \xleftarrow{e} x \xleftarrow{e} \cdots\}\) が存在すれば,\(x\) に retract する.
Adjoining colimits
Full subcategory \(\c{K} \subset \C{Cat}\) を固定する.関手 \(f\colon \c{D} \to \c{D}\) が \(\c{K}\)-indexed colimitsを保つとは,任意の \(I\in\c{K}\) と任意の colimit cone \(\overline{p}\colon I^\triangleright \to \c{C}\) に対して,\(f\overline{p}\) がcolimitになっていることとします.
余極限による生成
- full subcategory \(\c{C}' \subset \c{C}\) が \(\c{K}\)-colimitで閉じているとは,\(\c{C}'\)が\(\c{K}\)-colimitを持ち,関手\(\c{C}' \hookrightarrow\c{C}\)がそれらを保つこととする.
- \(\c{C}_0\) が \(\c{C}'\) を\(\c{K}\)-indexed colimitに関して生成するとは,\(\c{C}'\) が\(\c{C}_0\)を含み\(\c{K}\)-colimitで閉じた最小の部分圏 (of \(\c{C}\)) であることと定義する.
完備化の存在定理
\(\c{C}\) を圏として,\(\c{C}\)の(\(\c{K}\)-indexed)colimit coneからなる集まり \(\c{A}\)を考える.
only up to size issueで以下が言えます.
例:animation
特に後半の内容とは関係ありませんが,載せておきます.
1-圏から始めて,定理の結論のような圏を作ることを,nonabelian derived category や animation と言います.Finite product theory という1-圏的な代数構造から\(\oo\)-圏的モデルを与える議論です.
例:idempotent completion
これはもう少し基本的です.
- \(f\) が,\(\c D \simeq \c P^{\r{idem}} (\c C)\) であることをexhibitする.
- \(f\) が fully faithful,\(\c D\) が idempotent complete,そして任意の \(c\in \c C\) が \(\c D\) の対象の retract になる.
Accessible categories
対象 \(x\in\c{D}\) が \(\kappa\)-compact であるとは,関手 \(\o{Map}(x,-)\colon \c{D} \to \C{An}\) が \(\kappa\)-filtered colimit を保つこととする.
\(\c{D}^\kappa \subset \c{D}\) を,\(\kappa\)-compact対象で生成される full subcategory とする.
ind-completion などと呼ばれる.
- \(f\) が,\(\c{D} = \o{Ind}_\kappa(\c{C})\) であることを exhibit する.
-
以下が成り立つ.
- \(\c{D}\) は \(\kappa\)-filtered colimit を持つ.
- \(f\) は fully faithful.
- \(f\) の像は,\(\c{D}^\kappa\) に含まれる.
- 像 \(f\c{C}\) が \(\c{D}\) を \(\kappa\)-filtered colimit で生成する.
とくに,\(j\colon \c{C} \to \o{Ind}_\kappa\c{C}\) は fully faithful かつ dense.また,関手 \(\o{Ind}_\kappa(\c{C})\ \to \c{P}(\c{C}) = \C{LFib}(\c{C})\) は fully faithful かつ像は以下に一致する. \[ \{ (\c{E} \to \c{C}) \in \C{LFib}(\c{C}) \mid \c{E} \t{ is \(\kappa\)-filtered.} \} \]
定理の\(\c{C}\)の候補は,\(\c{D}\)から内在的に与えることが可能です.実際,\(\c D \simeq \o{Ind}_\kappa(\c D^\kappa)\) であることが,やはり定理からわかります.
もともと\(\c{C}\) が \(\kappa\)-small colimit を持っている場合は,次のような \(\o{Ind}_\kappa\) 標準形を証明できます.
ただし \(\kappa\) が \(\c{C}\) のサイズよりも大きい場合は,\(\o{Ind}_\kappa\) は次のように退化します.
accessible の定義に入ります.以下で,\(\kappa\)を固定して,\(\kappa\)-accessible 圏の定義をそのまま採用することもできます.
したがって先の定理は,accessible category の recognition 定理だと思うことができます.特に次の例を示すことができます.
以下のように,\(\kappa\) はジェネリックに大きく取り替えることができます.
A functor between accessible categories is accessible if it is preserves \(\kappa\)-filtered colimits for some \(\kappa\).
full でない部分圏 \(\C{Acc}_\kappa \subset \Cat{Cat}\) および \(\C{Acc} \subset \Cat{Cat}\) を上の定義に従って定義します.
accessible圏においては,任意の対象が必ず何かしらの\(\tau\)によって\(\tau\)-compactになるということを観察できます.実際,任意の \(X\in\o{Ind}_\kappa(\c C^\kappa)\) は \(\kappa\)-filtered colimit \(X = \colim_{c\in \c C^\kappa_{/X}} c\) として書けるので,\(\c C^\kappa_{/X}\) のサイズなどを使って \(X\) のコンパクト性をboundできます.とくに,\(\C{Acc} = \bigcup_\kappa \C{Acc}_\kappa\) が成立することに注意します.
忘却関手 \[\C{Acc} \hookrightarrow \Cat{Cat}\] は limit を create し,また任意の small category \(A\) による \(\o{Fun}(A, -)\) でも閉じている.
特に accessible category のスライス圏などは再び accessible であるということなどを言っています.
Digression: accessible前層圏
一般に,smallでない圏の前層圏 \(\o{PSh}(\c{C})\) は,特に普遍性を持ちませんが,coaccessible圏については以下の変種が知られています.
Lars Hesselholt, Piotr Pstragowski, Dirac geometry II, Forum Math. Sigma 12 (2024), Paper No. e27, 93 pp. MR4710717
補遺
Presentable categories
定義
\(\aleph_0\)-accessible かつ colimit完備の場合,compactly generated と言われます.より一般に,\(\kappa\)-compactly generatedという用語もあります.
したがって,presentable ならば locally small かつ limit をもつ.
また,\(\c{C}^\kappa \subset \c C\) は \(\kappa\)-small colimit で閉じる.
随伴関手定理
まず,(余)前層の表現可能性を与えておきます.
- 前層 \(X\colon\c C^\r{op} \to \C{An}\) が極限を保つとき,representable.
- 余前層 \(F \colon \c C \to \C{An}\) が limit を保ち,accessible のとき,corepresentable.
とくに,\(\c C \simeq \o{Fun}^\lim (\c C^\r{op}, \C{An})\),および \(\c C \simeq \o{Fun}^\lim_\r{acc}(\c C, \C{An})^\r{op}\) が成り立つ.
これにより以下を得ます.
- \(\c E\) が colimit をもつとする.presentable圏から \(\c E\) への colimit-preserving functor は,左随伴である.
- \(\c E\) が limit をもつとする.presentable圏から \(\c E\) への limit-preserving かつ accessible な関手は,左随伴をもつ.
Lurie テンソル積
Presentable圏の間のDeligne型テンソル積が存在します.分野によっては,Lurieテンソル積と呼ぶ人が多いです.私はこの呼称に慣れていなくて,たんに”テンソル積”と呼ぶことがあります.
また,右随伴関手を代わりに考えたものを \(\C{Pr}^\r{R}\subset \Cat{Cat}\) とおく.
以下の定理により\(\C{Pr}^\r{L}\)での極限・余極限を同定できます.
忘却関手 \(\C{Pr}^\r{L} \to \Cat{Cat}\) はlimitをcreateする.
忘却関手 \(\C{Pr}^{\r{L},\r{op}} \simeq \C{Pr}^\r{R} \to \Cat{Cat}\) はlimitをcreateする.
このとき,\(\o{Fun}^\r{L}(\c C_1, \cdots, \c C_n ; \c D)^\simeq\) を multioperator とするようなオペラッド \((\C{Pr}^\r{L})^\otimes\) が存在する.
また,各圏がpresentableならば,\(\o{Fun}^\r{L}(\c C_1, \cdots, \c C_n ; \c D)\)はpresentable.
- \(\o{Fun}^\r{L}(-,-)\colon \C{Pr}^{\r{L, op}} \times \C{Pr}^\r{L} \to \C{Pr}^\r{L}\) は左随伴 \[(-)\otimes(-) \colon \C{Pr}^\r{L} \times \C{Pr}^\r{L} \to \C{Pr}^\r{L}\] をもつ.とくに,オペラッド \((\C{Pr}^\r{L})^\otimes\) は対称モノイダル圏になる.
- 関手 \(\C{PSh}(-)\colon \C{Cat} \to \C{Pr}^\r{L}\) は対称モノイダル構造をもつ.忘却 \(\C{Pr}^\r{L} \to \Cat{Cat}\) はlax対称モノイダルの構造をもつ.これにより誘導される関手 \[ \o{CAlg}(\C{Pr}^\r{L}) \to \C{Pr}^\r{L} \times_{\Cat{Cat}} \o{CMon}(\Cat{Cat}) \] は fully faithful であり,像は closed symmetric monoidal になるもの全体に一致する.